2011年7月29日金曜日

「島よ」の歌詞

島よ
伊藤海彦
島よ
碧い日々にとりまかれているものよ
時の波に 洗われているものよ
翼もなく 鰭もなく
涯しなさに うづくまるもの
距てられ ただひとり 耐えているもの
憧れと 虚しさ あまたの眼に
みつめられているものよ
 ---島よ
まぶしさに 吹かれながら
島は夢みる
波の言葉に誘われて いつか
漂うことを。
見捨てられた沈黙
その悲しみを断ち切って
ある日 ふと 魚のように
漂うことを。
 ---かすかに煙る 明日
沖の彼方の 煙る明日
ああ だが
どこに行けるというのだろう
遠い昔からそうだったように
島は さだめられたひとりを生きる
 ・・・・・・・なぜ なぜ なぜ
その孤独から 空にむかって
問いかける 樹々の緑
 ・・・・・・・なぜ なぜ なぜ
白く泡立つ声をめぐらし
島はひっそりと 重くなる
忘れられた 果実のように
降りしきる雨の中で
島よ
おまえは傷ついたけもの
はてしない 波立つ荒野の
罠に落ちた小さなけもの
枝をしなわせ 葉むらを打ち
泥をこね 突き崩し 押し流す
雨、雨、雨、・・・・・・・・・
ああ 空と海との
まざりあうこの狂気
とめどなく 島を噛み 島を裂く 暗い力
そしてまた 島は失う
数知れぬ 昼と夜
そがれ けづられ
いくたびも失いつづけたものを
岩と土 夢と砂とを
雨は降り
風まじり、雨はつのり
島は確かめる
ひとときごとに失われる自分を
―――島よ

島は濡れ 島は沈む
島であることの いらだち
島でしかないことの 悲しみのなかに
波のはて陽が落ちるとき
赫々と身を染めて
島はおもう
遠い昔 炎だったことを
熱く溶けた 叫びだったことを
落日を身に浴びて
島はきく
わきたつ海の
あおの底をゆるがすひびき
島はきく
忘れていた はるかな生命
母なる岩漿の ひとつの声を
  ----ああ
溢れ こみあげ ほとばしる岩漿
焼けただれ 飛び散る 岩漿
炭と煙と にえたぎる海
かけのぼり 走り 空を引き裂き
かぎりなく
落ちて 落ちて 落ちつづける
灼熱の雪崩・・・・・・・・・・
  ・・・・・菫、紫、薄墨色
空は変わり 風はひそみ
夜へ傾く時のなかで
島はあたらしくなる
呼び覚まされた声を孕み
島は鮮やかに生きはじめる
島は感じる
ふかい夜のむこうから
やつてくるものの気配を
長い旅から かえってくる風を
たえずあの 青空の告げていたもの
怖ろしいまでの優しさ
ときあかせぬ 大気の微笑を
島は感じる
やつてくるものの気配を
見知らぬ一日が
吐息のようにひろがるのを
島よ
のがれようもなく孤りでいるものよ
心の中 虚ろな海に
浮かんでいるものよ
日ごと夜ごと その身をそがれ
なお遠い 火の刻印を守りつづけるものよ
島よ
おまえは 私ではないのか
散り散りの、人という名の
儚い島----
私ではないのか

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